『この海を越えれば、わたしは』(ローレン・ウォーク)

この海を越えれば、わたしは

この海を越えれば、わたしは

『その年、わたしは嘘をおぼえた』のローレン・ウォークの第2作。2018年のスコット・オデール賞受賞作。
舞台は1920年代のエリザベス諸島。主人公のクロウは生まれてすぐに海に流され、オッシュと呼ばれる画家の男に育てられていました。オッシュは社会性にやや欠けるものの愛情深くクロウを養ってくれていましたが、島民の多くはクロウを避けていました。かつてハンセン病患者を隔離していたペニキース島からクロウはやってきたのではないかと恐れていたからです。12歳になったクロウは、ペニキース島で燃える火を目撃したことをきっかけに自分の過去を知ろうと行動を始めます。
ハンセン病をテーマにした重厚な社会派児童文学を期待してこの本を手に取った人は、肩すかしを食らうかもしれません。ハンセン病はあくまで出生の秘密というロマンの味付け程度にしかなっていません。ただし、物語のロマン性という点では満点です。出生の秘密・隠された財宝・悪党との戦いといった枯れた素材がうまく料理されていて、コンサバティブなエンタメとしてよくできています。
しかし、あえて物語的な快楽を抑制している面もあります。生き別れの兄を巡るエピソードや、育ての親の秘密を巡るエピソードには明快な決着が与えられず、やや消化不良な印象も残ります。主人公が自分の誕生や現状を肯定するというテーマは、そのままならなさを残しておくことによって、かえって強度が増されています。