- 作者:三枝 理恵
- 発売日: 2019/10/19
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
木の葉が風に乗ってきて、自分をとおりぬけていった。
それで気がついた。自分には姿がないんだと。
そこは町の上空だった。上には青空、下には町が広がっていた。
まさに浮遊感のある、謎めいた書き出しが目を引きます。主人公は意識だけの存在のようで、現代の日本の社会常識は持っているものの記憶がなく自分が何者なのかがわかっていません。主人公と読者はともにわけのわからない世界に投げ出されます。
主人公は中学校に迷い込み、吹奏楽部の部員たちを眺めて「『知ってる』感じ」を抱きます。その後生物部のボランティアをしている美波信と名乗る男性に存在を認識され、彼の自宅に招かれることになります。
この作品、みんな大好き吹奏楽部地獄小説でもあります。その吹奏楽部には、自主的な退部を促すために顧問につくられた足手まといチームがありました。そんな部内で、人間関係がギスギスしないわけはありません。過激化した部活動は教育とはまったく無関係だということがよくわかるエピソードです。
さて、美波は高層マンションの上階に住んでいて、マンションを転売して生活している人物でした。金持ちではあっても浮世離れしていて、どこか欠落を抱えているようにみえます。彼はそんな生き方を「空中生活者」であると言い、「きみこそ、本物の空中生活者だね」と笑いました。浮遊し欠落を抱えたもの同士の運命的な出会いが美しいです。
このタイトルとあらすじ紹介をみると、ライトノベルをたしなんでいる読者は青春ブタ野郎的な話だと予想するだろうが、実際は○○○だった。この手のテーマは児童文学やYAでは重要。https://t.co/yhKq5Qy9Ko
— yamada5 (@yamada_5) March 25, 2020
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謎めいた物語なのでその真相を詳しく述べることはできませんが、このテーマは児童文学やYAで繰り返し語られるべきものであるということは断言できます。似たもの同士のようで対照的でもある主人公と美波の交流は、なかなかさわやかな結末を導きます。