『ぼくのポーポがこいをした』(村田沙耶香/作 米増由香/絵)

恋の絵本 (5) ぼくの ポーポが こいを した

恋の絵本 (5) ぼくの ポーポが こいを した

恋愛観や結婚観、ジェンダー観」のアップデートを意図して瀧井朝世が企画した「恋の絵本」シリーズの第5弾。「ぼく」のしんゆうは、サンタさんにもらったぬいぐるみのポーポ。でもポーポはおばあちゃんと結婚することが決まって毎日デートしているので、「ぼく」と遊んでくれなくなりました。「ぼく」は結婚に反対しますが、「ぼく」のふたりのおかあさんは大賛成。やがてまっしろなタキシードを着たポーポとまっくろなドレスを着たおばあちゃんの結婚式の日がきます。
特に驚くような話ではないですね。「きもちわるい」と言う「ぼく」に対し、おばあちゃんは「こいは へんなんだよ。へんになるのが こいなんだから」と答えます。そう、すべての恋は等しく変なのです。
ぬいぐるみや人形を愛の対象にすることは、特に驚くようなことではありません。この作品のタイトルは『ぼくのポーポがこいをした』。ここでのぬいぐるみは恋をする主体として描かれています。それも、ぬいぐるみをしんゆうとしている「ぼく」の視点で描かれているので不思議なことではありません。ここで幼年の時間と老年の時間が重ねられます。
喪服を思わせるおばあちゃんのドレスのまっくろや、最後にまっさおな空に広がるほのおのようなまっくろ、結婚式で涙を流すふたりのおかあさんなど、不穏に思えるような要素もなくはありません。でも、村田沙耶香と米増由香が描いたこの世界は美しいということだけは断言できます。