『ぼくと母さんのキャラバン』(柏葉幸子)

ぼくと母さんのキャラバン (文学の扉)

ぼくと母さんのキャラバン (文学の扉)

ある晩、牛乳を飲みに台所に行った小学5年生のトモは、人語を話す巨大ネズミに出くわしました。「前殿」と呼ばれるネズミは、トモの母親の「ゆみえ殿」を探しているようですが、母親は姿を消していました。母親に頼みごとがあったらしい前殿は、仕方なくトモを頼ることにします。
前殿はこの世界と重なり合っている異世界の住人で、以前からゆみえ殿と交流がありました。異世界同士が交差していると土地が分断されてしまって、前殿の世界で離れた場所に行くさい、トモの世界を経由して行かないとたどり着けないようになっていました。そこで前殿はラクダのキャラバンをゆみえ殿に先導してもらおうと思っていましたが、行方不明になってしまったので息子を代役に立てます。
トモは母親のことを、出不精で人嫌いな社会不適合者だと思っていました。しかし前殿や月の輪熊の「月殿」はゆみえ殿を信頼していて、初対面で泣き出したトモのことは軟弱な臆病者だと思っています。トモは不本意にも、伝説の勇者の不出来な息子としての役割を与えられてしまいます。
目次の後にある地図がいい具合に物語への期待感を高めてくれます。異世界には巨大ネズミや月の輪熊やラクダたちがいます。そしてトモの世界も、夜になると別の顔を見せます。川や橋には「川守」「橋守」という境界の番人がいて、公園の遊具も動き出したり、幽霊も出現したりと、大騒ぎ。統一感がないといってしまうとそうなのですが、わちゃわちゃした感じが楽しいです。
トモ側からみれば、これは自分が勇者の息子の役割を押しつけられる物語です。しかし上の世代の方からみると、かつてファンタージエンに行った者のその後の物語ということになります。大人が読む場合は、そっちの視点で読むとより感情を動かされるのではないでしょうか。