『ネバーウェディングストーリー』(ひこ・田中)

クラスのあぶれ者三人組が街を探索する「モールランド・ストーリー」シリーズの第3弾。
三人組のひとりのコトノハの家は、34階建てのマンションの32階。そこに隣接されているショッピングモール内を通っていくと、小学校にたどり着きます。この範囲がコトノハがふだん過ごす世界のほとんどすべてでした。ところがモールの先に高級ホテルができました。コトノハはここを新たな遊び場にできないかと考え、探索を開始します。
2階のエントランスは制服の人がドアを開けてくれるのでかえって入りにくく、1階には門番はいないけど子どもには縁のないブランド店が並んでいるのでさらに入りにくい。コトノハは試行錯誤しながら行動範囲を広げていきます。大人からすればコトノハの世界はあまりにも狭くその冒険もささやかなものにみえるかもしれませんが、ひこ・田中は子どもの感覚でその冒険をなぞっていきます。するとその冒険は、RPGで少しずつ世界を広げていくようなわくわくする楽しさを帯びてきます。
ホテルはいままでのコトノハの世界にはなかったハレの場。でもコトノハはそこで、結婚式という不気味なものを発見してしまいます。コトノハが徐々に結婚式の秘密に迫ってしまうサスペンス性が物語の後半を引っ張っていきます。ホテルで行われた結婚式に違和感を覚えたコトノハは、そこで行われたことを整理してみます。

新婦は父親と二人で白いカーペットの上を歩く。
祭壇の前で、新婦は父親から新郎に渡される。
牧師が聖書を読む。
賛美歌を歌う。
二人が誓いの言葉を言う。
結婚指輪を交換する。
二人がキスをする。
賛美歌を歌う。

コトノハは結婚式に隠された秘密を探るため、三人組で一緒に新郎・新婦・新婦の父親ごっこをしてみます。シミュレーションをして考えようという賢さは、ひこ・田中作品の登場人物らしいです。そして役割演技をすることで、この世界で女として生きるということがどういうことかということに、女子だけでなく男子も気づいてしまうのです。こう考えると結婚式という儀式はホラーでしかないわけですね。
一歩立ち止まって世間で当たり前とされることの本質を考えていく、ひこ・田中らしい鋭い社会派児童文学になっています。欲をいえば、ここまでやるならいっそコトノハの両親は法定婚をしていなかったという設定にするところまで踏みこんでもよかったのではないかと思います。