『そもそもオリンピック』(アーサー・ビナード/作 スズキコージ/画)

そもそもオリンピック

そもそもオリンピック

風が語りかけます。オリンピックの歴史を。何十万年も前にヒトというイキモノが走り出したところから始まり、古代のギリシアのオリンピックを語り、そしてオダミキオという三段跳びのセンシュが世界に羽ばたくさまを振り返ります。
風はヒトの胸に入りこみ一体化します。ヒトに寄生しているのか、共生しているのか、どちらにせよ風とヒトとの関係は幸福なものにみえます。
横長の画面を贅沢に使い、風とヒトの躍動がのびやかに描かれます。スズキコージのイラストは常に祝祭の空気をまとっていますが、ここでは身体性と自然の調和によりさらに絢爛になっています。
「そもそも」の世界の、なんと豊饒なことか。それに比べて、近代のオリンピックにつきまとう国家や政治や経済の、なんとちっぽけなことか。アーサー・ビナードによる「風とともに跳びぬ」と題されたあとがきでは、1924年パリオリンピックや1928年のアムステルダムオリンピック等で活躍した織田幹雄の言葉が紹介されています。

「スポーツにはスポーツの論理がある。オリンピックにはオリンピックの考え方がある。それを大切にしなければならない。政府や周りの思惑でどうのこうのと左右されることはない。それが貫けないようならやる意味もない」
「ぼくは国旗国歌はやめた方がいいと思う」
「とにかく平和運動なら平和運動らしくするようIOCは努力すべきです。国威高揚だ、メダルをとった、と大騒ぎするのは、オリンピック精神に反すると思います」