『トリコロールをさがして』(戸森しるこ)

トリコロールをさがして (ポプラ物語館 80)

トリコロールをさがして (ポプラ物語館 80)

トリコロールはまじりあわない、三色旗の三色は独立している、当たり前といえば当たり前のことですが、親密な人間関係のなかではその独立性が侵犯されるかのような幻想を持ってしまうこともあります。そうした幻想の甘さに溺れず、現実的な人と人の距離感を検証したことがこの作品の成果です。
小学4年生の真青は、2歳上の幼なじみの真姫ちゃんのことが大好き。でも真青に対する真姫ちゃんの態度は、だんだん冷たくなっていきます。おしゃれが好きな真姫ちゃんは、トリコロールという小学生に人気のファッションブランドのデザイナーの娘真白ちゃんとばかり仲良くしています。トリコロールが真姫ちゃんを変えてしまったと思った真青は、単身トリコロールのお店に潜入しようとします。
真姫ちゃん側からみても、この関係はつらそうです。小学校中学年・高学年にもなれば妹や弟がつきまとってくるのはウザくなってきます。まして年少の他人の相手など、よほどの聖人でなければ難しいはずです。
人間関係は無常で無情。過去にいくら仲良くしてても、いったん変化したものは元に戻せません。三人組は「ふたりプラスひとり組」になっていくとか、人が悪口をいっているときにはそんなことないとか反論してはいけないという謎ルールとか、作品は身近なところから人間関係のシビアさを冷静に見つめていきます。
最後の場面、偶然近所で会って久しぶりに真姫ちゃんと話した真青は、横断歩道の白い部分だけを踏んで道の反対側に渡ります。こういう小学生らしい行動にあわせてしましまの不連続性という象徴性を仕込む技が憎いです。変わってしまった関係性を元に戻すことはできません。でも、新たな関係性を築けるかもしれないという希望は残ります。冷たすぎもせず、あたたかすぎもせず、適度なリアリティを持った心の距離の物語として仕上がっています。

ちょっとだけ離れてみたら、よくわかったよ。
(p150)