『みつきの雪』(眞島めいり)

みつきの雪 (文学の扉)

みつきの雪 (文学の扉)

第21回ちゅうでん児童文学賞大賞受賞作。そして、至高の学校図書館小説です。
信州の寒村に住む高校生3年生桑島満希の、卒業式前日の物語です。満希は卒業式の予行後に、しばらく疎遠になっていた野見山行人という男子と顔を合わせます。彼は小学5年生の冬に山村留学生としてやってきて、そのまま小中高と同じ学校で過ごしていました。満希は行人とふたりで、母校の学校図書館に行くことになります。そして、ふたりの7年あまりの日々がゆったりと回想されます。
小学4年生のときの満希は、山村留学に来たイズミちゃんと仲良くしていました。イズミちゃんは山村留学のパンフレットに書いてあるように〈豊かな自然の中でのびのびと成長〉しているようにみえました。しかし、満希に黙ってイズミちゃんは突然東京に帰ってしまいます。絵に描いたようなニセモノに裏切られた経験を持つ満希は〈お客さん〉への警戒感を持つようになり、5年生のときに山村留学に来た穏やかな人格者の行人にも壁をつくっていました。しかし、雪玉を投げているうちに手袋をなくすというふだんのイメージと異なる行動をしていた行人と関わったりしているうちに、ふたりのあいだの距離は変化していきます。
地元での就職が決まっている満希と、都会の医大へ進学する行人、そんなふたりの別れの場面の舞台として、学校図書館は最適です。ここは知の回廊、外の広い世界に最も近い場所です。〈4類 自然科学〉〈9類 文学〉、歩くたびに人類の知をめぐり、同時にふたりの思い出も脳内でめぐることになります。ふたりにとっては、中学3年生のとき図書準備室にある裁断機をいじっていて満希がけがをしたという、身体的にかなり痛い思い出のある場所でもありました。
特筆すべきなのは、新人離れした描写力です。圧巻なのは、図書館でふたりが握手する場面。紋切り型の表現を避け、特別な時間が丁寧に描かれます。これは小学生のときの手袋のエピソードが布石になっているわけで、ふたりの時間がここで静かに一気に解放されます。
雪の冷たさのなかにちょうどよい体温のぬくもりと与えてくれるような文章です。文章の魅力でここまで読ませてくれる新人は、めったにいません。ぜひ書き続けてもらいたいです。