『わたしの全てのわたしたち』(サラ・クロッサン)

2016年のカーネギー賞受賞作。グレースとティッピは結合双生児として生まれました。ふたりは家庭で教育を受けていましたが、有志の人たちの寄付金が途切れてしまったので、16歳にして初めて学校に通うことになります。ふたりの新生活がグレースの視点から詩の形式で綴られます。
弱者を苦しめるのは貧困なのであるということが、容赦なく描かれています。ふたりには幼いころ凶暴だったのでドラゴンというあだ名をつけられた妹がいます。この妹がとてもいい子なのですが、グレースは自分たちにお金がかかるためにドラゴンに不自由な思いをさせていることに負い目を感じています。そして、のっぴきならないところまで困窮が進んでしまうと、自分たちを見世物として売るという昔ながらの手段をとらざるをえなくなります。
ふたりは心の支えになるものも持っています。それは、過去の結合双生児たちに関する知識です。歴史の蓄積が弱者の励ましになっているわけです。
この作品は詩になっているので、翻訳は人気詩人の最果タヒが担当しています。この起用が功を奏していて、読者の感情を強く揺さぶるようになっています。特に終盤で多用された、文章を四角く固めて読者の視界に一気に激情をたたみかける手法が効いていました。
ただし、うまさは目立ちますが、ではこの作品はかわいそうな人を見世物にするエンタメを乗り越えるようなにかを持っていたのかという点についてはよくわかりませんでした。たとえば、「死ぬまでにやりたいことリスト」なんかが出てくると、またかよ感は否めません。そのあたりが本国でどう評価されているのか気になるところです。