『お庭番デイズ』(有沢佳映)

お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 上

お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記 上

お庭番デイズ  逢沢学園女子寮日記 下

お庭番デイズ 逢沢学園女子寮日記 下

10年代児童文学を代表する超傑作『かさねちゃんにきいてみな』から約7年、ようやく待望の有沢佳映新作が出ました。中高一貫校の女子寮を舞台にした作品です。この逢沢学園の女子寮には学校内の問題を解決する助け合いの制度があって、「お庭番」と呼ばれる情報収集係が前線に立って活躍していました。語り手のアス(戸田明日海)を含む1年生三人組が新たなお庭番に指名されるところから物語は始まります。4話構成になっていて、第1話は三人組がお庭番を引き受けるまでの話、第2話は女子生徒が男子寮の生徒をストーキングする事件の話、第3話は学校前にある文房具などを売る小さなお店で起こる万引き事件の話、第4話は霊感少女が起こしたもめごとの話となっています。
小学校の登校班を舞台にした『かさねちゃんにきいてみな』がそうであったように、この作品も基本的には子どもたちのおバカ行動を写実的に描いたギャグ小説になっています。女子寮の生徒は登校班より数がかなり増えていて50人ほど。人数のぶんにぎやかさが増しています。女子たちのおバカ行動の例を列挙すると、

とんがりコーンにアイスを乗せてミニアイスにする。
ポルターガイストを鎮めるため夜中に3人で『負けないで』を合唱。
・夜中に「タンバリンごっこ」をして、部屋の電気のスイッチを破壊。

といった具合。いかにもありそうなおバカ行動が休む間もなく繰り出されます。
助け合いのなかで他人をよく知ることができれば理解することができるという、基本的に前向きな話ではあります。たとえば第2話の恋多きストーカー女子も、人のよいところを見つけるのが得意な人であるというポジティブな言い換えで受け入れられます。ただし女子たちには冷めた面もあって、コミュニケーションに工夫や戦略を施すことを忘れません。
第3話の万引き事件の被害者になるのは、生徒たちには「ババアの店」の「ババア」と呼ばれている老人。偏屈な性格で多くの生徒たちからは敬遠されています。女子たちは、ババアの存在が身近になれば万引きはしにくくなるであろうと、授業の課題である地域インタビューのスライドショー作成の題材に取り上げるという案を出します、しかし、ここで伝える情報は天然物ではなく、加工品であることを女子たちは意識していて、インスタ職人の子がババアの写真をいい具合に演出したりします。
第4話では、霊感少女を女子寮のクリスマス怪談会の演者として受け入れます。そのなかで、霊感少女と思われた女子がオカルトを無条件に信じるタイプではなく、学術的に研究するタイプのおもしろ女子であることが明らかになります。演者ひとりに対し無数の観客がツッコミを入れるというこの怪談会のあり方は、YouTuberのライブ配信のチャットのようでもあります。そこに、演者が信じていない寮の地縛霊もポルターガイストでにぎやかすので、有沢佳映らしいカオス空間となります。
『かさねちゃんにきいてみな』と同じく、表面上浮かれた話の裏側には暗いものも見え隠れします。女子寮の朝は忙しく、アスは「ダルくなるヒマもない」と述懐しています。これは管理する側からみれば子どもを疲れさせることで思考を停止させるという悪巧みでもあるのですが、子ども側からみれば忙しさに追われることでつらいことに正面から向き合わなくてすむようにする処世術にもなっています。アスたちは、意識して気を紛らせなければ正気を保っていられない現実があることを知っています。
『かさねちゃんにきいてみな』の正統進化形といった感じで、『かさねちゃん』以来新作を待ち続けてきたファンの飢えを十全に満たしてくれる作品でした。次の作品はここまで待たせないようにお願いしたいです。