『おいで、アラスカ!』(アンナ・ウォルツ)

おいで、アラスカ! (フレーベル館 文学の森)

おいで、アラスカ! (フレーベル館 文学の森)

スウェンとパーケル、中学校で同じクラスになったふたりが交互に語り手を務める構成になっています。ふたりのつながりは、アラスカという犬との縁でした。パーケルはアラスカの元の飼い主でしたが、いまではアラスカはてんかんを患っているスウェンの介助犬になっています。パーケルはスウェンはアラスカの飼い主にふさわしくないと考え、深夜にフェイスマスクをかぶってスウェンの部屋に押し入りアラスカを誘拐しようと画策します。
覆面かぶった女子が夜な夜な男子の部屋に入りこむという奇行はインパクトが強いです。しかし、世界への最低限の信頼を失ってしまった子どもというテーマは深刻です。てんかんの発作を起こした瞬間に周囲の人々の視線が変わり、その後の自分には被差別者という役割のみが与えられるということを、スウェンは知っています。パーケルの方は、両親のやっている店に強盗が入ったことがトラウマになっています。刑務所に入っている人のうち男性の割合が高いのにみんながそれを気にしないことをおそれるような極端なミサンドリー思想に陥るまでに、パーケルの精神は追い詰められています。ふたりとも、1秒後には世界が終わってしまうかもしれないということに常におびえているのです。
まだ捕まっていない強盗を追う冒険もありつつ、ふたりの距離がだんだん縮まっていく様子は感動的です。ただし、最後のあれは否定しておきたいです。ああいう同調圧力の産物は、差別を克服する手段たりえません。