『ぼくたちの緑の星』(小手鞠るい)

ぼくたちの緑の星

ぼくたちの緑の星

「教室内では、質問は禁止されています。決められたことには従う。ジュウゾクする。それがこの社会の決まりです。
私たちは今、ひとつの大きな『ゼンタイ・モクヒョウ』に向かって、大人も子どもも、みんなで力を合わせて、進んでいっているのです。だから、決まりを守ることが、ジュウゾクが、なによりも重要なのです。」

小手鞠るいによるディストピアSFです。現在の日本ではディストピアSFはリアリズムと同義になっているような気もしますが、とりあえずディストピアSFということにしておきましょう。
作品世界では、いろいろなものが消えていきます。人々は名前を失い、数字とアルファベットを組み合わせた記号で呼ばれています。学校では音楽の先生が消え音楽の授業がなくなり、図書室の先生が消え本も燃やされます。そんななかで主人公の少年は、「アンモナイトくん」と呼んでいるかたつむりのかたちをした通信機を隠し持っていて、「1962121GS」なる謎の人物とコンタクトを取り、世界に反抗します。
作品世界を満たすのは喪失感と、消えたものを愛しく思う気持ちです。『ハローサマー、グッドバイ』などの諸作でリリカル・破滅・ディストピアのイメージのついているSF絵師片山若子のイラストがぴったりで、特に子どもたちが図書室の本を焼却炉に運ぶ場面は、読者の感情を揺さぶります。
ただ、全体的な雰囲気はよいのですが、結末がちょっと。正しい心を持った人々はアセンションできますよみたいなオチは安易に感じられました。