『令夢の世界はスリップする 赤い夢へようこそ -前奏曲-』(はやみねかおる)

すべてのはやみね赤い夢ワールドの風呂敷を畳むというふれこみの新シリーズ。多くのファンは半信半疑で手に取ることになるでしょうが、はじめの登場人物一覧をみるとマチトム・クイーン・ジョーカー・夢水・岩崎三姉妹・虹北恭助と本当にオールスターの名前が並んでいて手が震えます。
主人公の令夢は、自分の意思に関わらず並行世界へ移動してしまう「スリップ」という特殊能力を持っている中2女子。今回スリップした世界は、幼なじみの内人に創也という異常ハイスペックの親友がいる世界でした。ほかにも変人奇人が続々と登場してきます。今回の世界は、令夢の世界では亡くなっている母親が生存している世界でもあり、令夢にとって特別なスリップ体験になります。
夢水・創也・恭助と、はやみねワールドを代表する探偵役が一堂に会する場面とか、夢水とクイーンの会談の場面とか、長年はやみね作品を追ってきた読者には心臓が止まるかと思うようなシチュエーションが続きます。
はやみね作品にたくさん登場するのは、名探偵だけではありません。作家志望の子どもも何人か登場しています。児童文学に作家志望の子どもが多数出る理由について、荻原規子は「作家が一番よく知っているのは、作家になるタイプの人間のことなのだから、多く登場するのは当たり前といえば当たり前だ」と身も蓋もないことを述べています*1。しかし、ジャンルがミステリとなるとメタ要素が繰り出されるのではないかと身構えてしまいます。
はやみねかおるは、もちろん児童文学作家です。しかし、新本格の影響下にあるミステリ作家でもあることも忘れてはなりません。この作品を読んで、90年代中盤(夢水シリーズ開始・メフィスト賞スタートあたりの時期)から00年代中盤あたりの講談社ノベルスを中心としたミステリシーンが思い出され、懐かしい気分になりました。

*1:

ファンタジーのDNA

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