『24時間のキョーフ 3 真昼のキョーフ』(日本児童文学者協会/編 軽部武宏/絵)

真昼のキョーフ (24時間のキョーフ)

真昼のキョーフ (24時間のキョーフ)

  • 発売日: 2020/09/04
  • メディア: 単行本
もしも、食や料理をテーマとしたホラー短編アンソロジーを編むとしたら、どんな作品を入れたいでしょうか。「注文の多い料理店」「特別料理」「定年食」「新鮮なニグ・ジュギペ・グァのソテー。キウイソース掛け」、小説だけでなくまんがも入れるなら、「にんじん大好き!」とかも……。なにが言いたいかというと、この本に収録されている森埜こみちの怪談ショートショート「知りたいは、いけない?」は、上に挙げた作品群と比べても遜色のない傑作であり、もし美食怪談アンソロジーを編むならば必ず入れなければならない作品であるということです。
「知りたいは、いけない?」は、森の動物たちのレストランが舞台のお話。ここには「目をつぶって、こころのなかで注文する。」「おいしいにおいがしたら、目をあける。」「ほかのだれかが注文したときも、においがするまで目をつぶる。」というルールがありました。そうすればこころのなかで想像するだけで絶品のごちそうにありつけることになっていました。ところがきつねとくまが料理が出る瞬間にはなにが起こるのだろうと疑問を持ってしまい、その様子を外から覗いて報告するようにカラスに依頼しました。
この手の話のパターンとしては、食材や料理法のおぞましさに読者の興味が集中するものです。ところがまさかあんなことになり、予想外の方向から防御不可能の攻撃を受けることになるとは……。
童話調の優しい語りが徐々に不吉さを高めていって、最後はジェットコースターのように猛スピードで落としてくれます。アイディアも構成も語りも、すべての面で満点の作品です。
なにがたちが悪いって、このアイディアは童話のかたちでないと処理が難しいんですよね。それをうまく利用してここまで邪悪な作品を仕上げるとは。森埜こみちのこれまでの作風からはなかなか想像しがたい作品だったので、感服するばかりでした。