『俳句ステップ!』(おおぎやなぎちか)

クラスでどのグループにも属しておらず、特に秀でたところもなく目立たない小3女子七実には、俳句というひそかな趣味がありました。遠足のときにクラスのはなやかグループのリーダー清花さんがさるに帽子を取られたのを見て、「さる山のさるにとられた春ぼうし」という俳句をつくり、メモ帳に書きましたが、特に誰にも発表しませんでした。ところがその俳句が応募した覚えもないのに市の〈子ども俳句大賞〉で大賞を獲得します。しかも、その作者はクラスの優等生グループのリーダーの早知恵さんだということになっていました。俳句を盗まれたのは不本意だけど、本当の作者が自分だということがばれるとはなやかグループににらまれることになるので怖い、どっちに転んでも七実がいやな思いをするという事態に追いこまれてしまいます。
導入部の状況には、かなり地獄感があります。が、作品はそれほど暗い方向には転びません。このあと語り手が早知恵さんに交代し、彼女の方にも悪意があったわけではなく不幸な事故の積み重ねでこういう事態に至ったのだということがわかります。
早知恵さんは基本的にまじめタイプですが、自分が泥棒扱いされることに激怒して七実を困らせるような年齢相応の未熟さも持っています。そして、まじめな子扱いされることに窮屈さも感じています。
七実七実で、劣等感に悩まされています。特別深刻なわけでもない等身大の悩みですが、当人にとっては大問題です。そんな悩みを抱えたふたりが、俳句という表現の活動を通していつもと違う自分を発見し、自分や世界のことをちょっとだけ好きになります。
この事件でふたりが大きく成長したわけではありませんし、ふたりの距離が劇的に縮まったわけでもありません。しかし、ここで描かれたささやかな変化は、非常に尊いものです。とても好感度の高い作品でした。