『世々と海くんの図書館デート 恋するきつねは、さくらのバレエシューズをはいて、絵本をめくるのです。』『世々と海くんの図書館デート 2 夏のきつねのねがいごとは、だいすき。だいすき。だいすきです。』(野村美月)

青春ものに強いライトノベルレーベル・ファミ通文庫の屋台骨を20年近く支えてきた人気作家野村美月青い鳥文庫に初登場。一挙に2巻同時刊行というのも異例の扱いで、期待の高さがうかがわれます。
森の中に住んでいるきつねの女の子笛ノ森世々は、人間の男の子西室海くんに恋をしていました。家庭の事情でいつも図書館にこもって勉強している海くんのことを、人間に化けた世々は絵本を読みながら見ていました。海くんもそんな世々が気になるようになり、海くんの方から告白してふたりの交際が始まります。
といっても、ふたりのデートはそれまでと変わらず図書館での勉強・絵本読み。端から見てるともどかしくてたまりません。海くんの親友の由鷹くんや海くんに片思いしている相沢さんも優しいまなざしでふたりを見守っていて、読者も友人たちの視線に自分の視線を重ねてふたりの恋の行方を眺めることになります。お互いに下の名前で呼びあうこと、手をつなぐこと、ゆっくりと自分たちのペースで世々と海くんは恋を育てていきます。
その時々で世々が読んでいる絵本の内容も、物語に関わってきます。世々の無邪気な語りと引用される絵本の言葉の相乗効果で、物語世界の幸福感はたいへんなものになっています。
青い鳥文庫は老舗の児童文庫レーベルだけあって毒の強い作品が多いですが、この作品は全く違います。読者は毒ではなく砂糖の大量摂取で殺されることになります。最高。
以下、2巻の結末部分に触れるので未読の方は読まないようにお願いします。
だいすき。 (BOOKS POOKA)

だいすき。 (BOOKS POOKA)

だいすき。 (BOOKS POOKA)

だいすき。 (BOOKS POOKA)

だいすき。 (BOOKS POOKA)

だいすき。 (BOOKS POOKA)

最後のエピソードで、世々はアンドレ・ダーハンの絵本『だいすき。』の仕掛けを暴きます。無邪気そうにみえて、世々の正体、「文学少女」じゃないか。世々は読めてしまう側にいるわけです。
海くんの劣悪家庭環境も明かされます。世々が愛情あふれる3人の姉に囲まれているのに対し、海くんと3人の妹の関係が冷えきっているという対称性も気になります。基本線では作品世界の幸福感は維持していくのでしょうけど、物語がどう転んでいくか、先が楽しみです。