『10分あったら…』(ジャン=クリストフ・ティクシエ)

父親の失業のためパリから田舎に引っ越した少年ティムは、二日間の留守番を命じられます。田舎で友だちもいない環境での留守番は、どう考えても楽しいものにはならなそうでした。しかも、DIYマニアの父親から「10分あったら、おまえの部屋の壁紙はがすのを、やっといてくれよ」と頼まれ、重労働まで押しつけられます。ところが、壁紙をはがしたあとに「これはわたしの物語」という謎めいたメッセージが現れたことから、ティムの休暇の様相は変わっていきます。隣家の女子レアからこの家がとんでもない事故物件であることを教えられ、インターネットで詳しく調べてみると、銀行強盗の男が殺された家であったことがわかります。その強盗事件で奪われた金の延べ棒はいまも行方不明になっていました。ティムは隠された宝物をめぐる事件に巻きこまれることになります。
家に出入りする湯わかし器修理の男が怪しい振る舞いをしたりと、ティムの周囲は急速に不穏になっていきます。親がいないからひとりだけの冒険ができるけど、親がいないから安全は保証されない、でも親に助けを求めると冒険ができなくなってしまう、この葛藤でティムの心は揺れ、この綱引きが物語のサスペンス性を盛り上げていきます。
また、レアとの関係もティムを悩ませます。いつの間にかティムのひとりだけの冒険は、レアとふたりの冒険に変化していきます。レアは気まぐれタイプの女子で、どこまで真剣に冒険に取り組んでいるのかも判然としません。レアが帰ったあとにひとりで謎解きを進めるとレアの楽しみを奪うようで悪いかなと考えたりと、ひとりで気をもむティムの様子も楽しいです。