『おとうさんのかお』(岩瀬成子)

おとうさんのかお (こころのつばさシリーズ)

おとうさんのかお (こころのつばさシリーズ)

  • 作者:岩瀬成子
  • 発売日: 2020/09/24
  • メディア: 単行本

「あのね、しょうらいなにになりたいかってことを、おとなの人は子どもにすぐに聞きたがるでしょう。だから、いつ聞かれてもいいように、ちゃんと答えを用意してなきゃだめなの。『えーと』なんていって、もじもじしてたら、この子は頭があんまりよくないのかなって、すぐにおとなの人はきめつけるからね。」

おにいちゃんと喧嘩した利里は、小3が終わった春休みに家出(?)して単身赴任中のおとうさんのマンションで過ごすことになります。おとうさんはなにかと世話を焼いてくれますが、ふたりの関係はうまくいきません。そんななか、郵便局強盗になることが夢だという同級生の女子雪と公園で出会います。偶然にも雪はマンションの隣室に住んでいたことがわかり、一緒に遊ぶようになります。
大人が読むと、つらくなる話です。大人は本当につまんねーことしかいえないのだということをつきつけられてつらくなってしまいます。このおとうさんはどちらかというと、まともでものをよく考えている方の大人です。春休みを無為に過ごさせないようにいろいろと計画を立てていますし、娘と過ごす時間をたくさん確保するためにかなり無理をして仕事を調整している形跡もあります。しかし、出力される言葉のつまらないこと。買ってあげた本を放置している娘に「本はね、さいごまで読まなきゃだめだよ。集中力と根気をやしなうことはだいじだよ」とか、花見に連れて行っても気乗りしない娘に「花を見たらきれいだなあって思える心がそだってくれればなって、おとうさんは思うんだよ」とか。みごとにふたりの気持ちは行き違います。
一方で、雪との友情は輝きます。雪は顔を描いた石に名前をつけて友だちにしているいるような子で、周囲からは疎外されているようです。どことなくずれたところのある利里は、すぐに雪となじみます。この奇跡のような共鳴が、鬱屈した空気を打破していきます。