『キャンドル』(村上雅郁)

キャンドル (フレーベル館 文学の森)

キャンドル (フレーベル館 文学の森)

第2回フレーベル館ものがたり新人賞大賞受賞作『あの子の秘密』で昨年デビューした村上雅郁の第2作。デビュー作が大好評だったため期待のハードルが上がった2作目でしたが、みごとにそれを飛び越えてくれました。娯楽性の面でも美的な面でもテーマ性の面でも、十分期待に応えるものになっています。
主人公の螢一には、翔真という親友がいました。翔真は「女装男子」でしたが、強気な性格で差別に立ち向かっていました。しかし、もうすぐ中学に進学し制服を着なければならなくなることを悩んでいました。螢一の方は、学校の備品室でプレゼントのような包みを発見したことから、花という見知らぬ女子の記憶だか感情だかが流れこんでくるという怪奇現象に悩まされるようになります。螢一は翔真の助けを借りて怪奇現象の正体を探ろうとします。
デビュー作『あの子の秘密』で村上雅郁は、ふたりの語り手の語りを巧みに書きわけて作品世界を構築する技を見せつけました。その技は『キャンドル』でも披露されています。『キャンドル』は基本的に螢一の語りで進められますが、怪奇現象の場面では視点が花のものになります。ここで作品のトーンはがらりと切り替わり、文体がじっとりとしてきて出てくるガジェットもそれっぽいものばかりになり、その筋の人にこれがどのような種類のものなのかを即座に理解させます。そのあたりの仕掛けを具体的に説明することができないのがもどかしいのですが、この文体の操作力の高さが驚嘆すべきものであるということは断言できます。
螢一は幼少期に母を亡くしたトラウマから、感情を波立てない生き方を信条として生きていました。そんな螢一にとって女子の激重感情を浴びせられることは、暴力じみた苦痛です。それでも、『あの子の秘密』で善良な三つの魂が他人の心を救うために奮闘したように、『キャンドル』でもなんの義理もない花のために、やはり善良な三つの魂が苦難の道を歩みます。

おとなになるって、あきらめることなのか?

感情を動かさず、どうにもならないことを受け入れることが成長なのでしょうか。物語は『あの子の秘密』と同様、手放してはならないものを取り戻すための探求の様相を呈します。
村上作品の気高さは、理想を描いているところにあるのではありません。理想を守り抜く確かな覚悟を描いているところにあります。ぜひこの姿勢を貫いていってもらいたいです。