『科学でナゾとき! わらう人体模型事件』(あさだりん)

科学でナゾとき!わらう人体模型事件 (偕成社ノベルフリーク)

科学でナゾとき!わらう人体模型事件 (偕成社ノベルフリーク)

  • 作者:あさだりん
  • 発売日: 2020/08/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
鈴木彰吾は、パーフェクトな児童会長(自称)。しかし、パーフェクトな彼にも悩みはありました。それは、父親が科学実験の特別講師として自分の通う小学校に赴任してきたこと。父親は彰吾からみたら理系バカの社会不適合者で、周囲にふたりの関係を絶対に知られたくないと思っていました。校内では、人体模型が笑い出したり人形が血の涙を流したりと怪事件も続々と起こり、児童会長の心労は絶えません。
理科読み物としては、それほど高度な思考力が要求されるわけでもなく雑学レベルの理解で楽しめるようになっているので、ちょうどいい具合です。
おもしろいのは、必ずしも主人公の彰吾が探偵役とは固定されていないことです。父親は科学解説のおじさん役を担当しますが、子どもたちの役割は状況によって変化します。これは当然のことで、現実では人の役割など決まっているはずがありません。彰吾は自分をパーフェクトだと思っていますが、その自己イメージも変化していきます。なにしろ、女子のリップクリームを盗んだ疑惑をかけられるという学校に通えなくなっても仕方のないレベルの屈辱を受けるくらいですから、そもそも客観的にみて彰吾はそれほど権力を持っているとはいえないのです。自己イメージと他者のイメージの乖離にもまれながら、彰吾は自分や侮っていた父親に対する見方を更新していきます。
作中で起こる事件は悪意によって起こされたものはほぼなく、ちょっとした思慮の浅さから生まれたものばかりです。彰吾はただ事件の真相を見極めるだけでなく、事態がいい方向に転ぶように対処を考えます。その過程で自分と父親の善性を発見していくの展開が好ましいです。