物語の中盤まで事態の中心は明かされず、ナナは喪失感と感傷とともに旅をします。おぼろげにわかるのは、高校時代バンドメンバー内でクロエとイーサンが付き合っていて、ノエルがイーサンに片思いしていたという同性愛を含む複雑な人間関係があったということ、いまではもうふたりは別れていて、ノエルはなんらかの事情でいなくなっているということくらいでした。
起こってしまった取り返しのつかない出来事が中盤に明かされてからは、物語は『ある晴れた夏の朝』と同じようなアメリカを舞台にしたディスカッション小説の様相を呈します。日本にはディスカッションの文化が根付いていないので、あえて日本を舞台から外してしまうという手法の試みは興味深いです。
議論のポイントは明かせないのですが*1、ある文化を持つ日本人は、憎悪を煽ろうととする人々に利用される可能性があるという着眼点は鋭いと思いました。すでに一国の文化内で完結して生きていくことは不可能な時代になっています。否応なく他文化との関わりのなかで生きていかなければならない時代では、文化だから尊重せよという理屈だけでは主張を通すのは難しくなります。そろそろ日本も、世界と足並みをそろえないとまずい段階にきているようです。
*1:わたしは本文読むより先に巻末の参考文献一覧が目に入ってしまってだいたいの予想がついてしまったので、これから読む方は気をつけた方がいいと思います。