『ベランダの秘密基地 ~しゃべる猫と、家族のカタチ~』(木村色吹)

世界各地に隕石が落ちたことをきっかけに、動物たちがしゃべるようになりました。高校1年生のカケルが飼っている猫も話し出しますが、怪しい男たちが動物を回収しようとする動きも見え隠れし、カケルは動物たちを守るための戦いに巻きこまれます。
動物との交流あり、ボーイ・ミーツ・ガールあり、国家的陰謀との戦いあり、ジュヴナイルとして新奇性はないものの、そこそこエンタメ性はあります。
冒険ものというよりも、家族の物語として注目する必要のある作品です。カケルの母は超優秀な兄(カケルも優秀なのだが)と比較してカケルに侮蔑的な態度を取っていました。といっても兄を愛しているわけでもなく、兄も支配の対象としかみていませんでした。カケルのガールフレンドを目撃した母は、兄にお似合いだと意味不明なことをつぶやき、兄とくっつけようと画策します。目を付けた理由は、兄ほど頭がよくなさそうだから自分でも与しやすそうだということで、まったくわけがわかりません。
動物がしゃべるという設定の話なので、読者の多くは動物とは家族になれると思いながら物語を読み進めていくことになるでしょう。ここで作品は、動物にも劣る人間とは家族を続けることができるのかという問題提起をしていきます。
毒親ものの先進的な作品としてまず思い浮かぶのは、いとうみくの『カーネーション』(2017・くもん出版)です。『カーネーション』では子どもを毒母から守るために、別居して物理的に引き離すという現実的な対処法を提示しました。『ベランダの秘密基地』ではさらに進んで、離婚して毒母を家族から完全に排除するという道を選びました。弱気だった父親も最後には子どもの親権は自分が取ると力強く宣言します。その背景には、兄が証拠となる虐待の記録をつけていたので、裁判になっても有利になるだろうという現実的な計算もあったものと思われます。
この方向が進めば、では家族から排除された虐待加害者はどこが包摂すればいいのかという議論も起きそうです。でもそれは優先順位の低い話で、やはり児童文学は子どもを守ることを一番に考えるべきでしょう。