『夜の妖精フローリー』(ローラ・エイミー・シュリッツ)

フローリーは夜の妖精。妖精は何十年何百年と生きると強力な魔力を持つようになりますが、不幸にもフローリーは生後三ヶ月でコウモリにつばさをかじられてしまい、巨人(ニンゲン)の庭に落ちてしまいます。危険な生き物の跋扈する夜の世界で生きる力を失ったフローリーは、昼の妖精になる決意をします。
ファンタジーとしてなかなかにできのいい作品で、2010年発表なのにすでに古典の風格を持っています。まず、小さい妖精の視点から見る夜の世界昼の世界それぞれのきらめきが、読者の目を楽しませてくれます。そして、フローリーの使う魔法も魅力的です。はじめに習得した基本の攻撃魔法「さす呪文」は微力だけど汎用性が高く、さまざまな場面で活躍してくれます。もう少し高度なものを操作する魔法になると、フローリーはまず目を閉じてその効果を想像しながら呪文を使います。そして目をあけるとその通りの効果が眼前に現れます。その光景は残酷ながらも美しいものでした。
フローリーの生活は、他の生物との闘争になります。ハチドリを乗り物にしたいと思ったフローリーは、クモの糸に絡めとられたところを助けて恩を売り、望みを叶えようとします。しかしハチドリは、「わたくしは、わたくしのものです」と言って拒絶します。この作品世界は、きび団子を与えれば仲間にできるというレベルのおとぎ話世界ではないのです。そうは言ってもここで助けてもらわないとおまえ死ぬじゃんというフローリー側からすれば合理的に思える説得にも、ハチドリは応じません。フローリーは思い通りにならない他者との対峙を余儀なくされます。
さらに、クモ側からすれば、フローリーは獲物を横取りしようとする理不尽なならず者ということになります。ここにあるのは利己心と利己心のぶつかりあいで、生きていくうえで避けて通れないものです。
150ページに満たない小品ながら、非常に重厚な味わいのある作品でした。