『QK部 トランプゲーム部の結成と挑戦』(黄黒真直)

QK部 トランプゲーム部の結成と挑戦

QK部 トランプゲーム部の結成と挑戦

高校に入学したばかりのみぞれが親友の津々美と部活見学で校内をうろついていたところ、「素数大富豪 QK(1213)部」と名前が三つもある不可思議な部を発見します。恐る恐る活動場所の教室に入ってみたところ、伊緒菜という2年生(一人部員の部長)からカードの組み合わせで素数を作る大富豪を教えられ、興味を持ち入部を決意します。
津々美より秀でたところがなにひとつなかったみぞれは、素数大富豪の体験で初めて津々美に勝利しました。ずっと津々美に憧れを抱いていたみぞれは、自分にも誰にも負けないことを見つければ津々美のようになれるのではないかと思い、新しい世界に飛びこもうとしました。津々美の方もそんなみぞれの思いを受け止め、自分がいつまでもみぞれの目標でいられるようにがんばろうと決意します。序盤からのどかな百合をぶつけ、作品の方向性を明確にしています。
児童文学として読むと、自分に自信を持てなかった子が自分のステージを見つける話だというのが重要な要素となります。続けて入部する慧は、女子なのに数学が得意であることで迫害を受けた経験があったので、数学のテストではわざと平均点をとったりして自分の好きを隠して生きてきました。しかし、QK部で初めて自分の好きが受け入れられる経験をし、新たな居場所を獲得します。女子に対する差別を乗り越えるフェミニズム児童文学の要素も盛りこまれています。
物語の組み立て方は、能力バトルものの少年まんがと同じようになっているので、手堅いエンタメ性を獲得しています。伊緒菜は初心者を引かせないようにはじめは簡易版ルールを工夫していて、だんだん本来のルールを取り入れるようにしていました。このため、段階を踏んでバトルの戦略性が高まっていく様子を楽しめます。素数大富豪に必要なのは能力は、素数を暗記する力・試合を組み立てる計算力・いいカードを引く運など。さまざまな特技・能力を持つプレイヤーが増えてバトルはどんどん盛り上がっていきます。さらに終盤では 最大のライバルである「お姉ちゃん」の存在が明らかになり、バトルものとしても百合としても期待が高まります。
初出のカクヨムで続きを読むこともできますが、ぜひ書籍版でも続編を出してもらいたいです。