2020年の児童文学を語るなら、まずは発表された瞬間に学園もの
少女小説の新たな定番になったとの呼び声も高い『お庭番デイズ』に触れないわけにはいかないでしょう。待たせやがって、待たせやがって……。超傑作『かさねちゃんにきいてみな』から約7年、やっと有沢佳映の新作が出ました。生徒間の助け合いの制度のある
中高一貫校の女子寮が舞台。有沢佳映らしい写実的でハイテンションな語りで、おバカ女子たちのドタバタ劇が繰り広げられます。
ロングセラー『ココロ屋』の続編が、9年ぶりに登場。捉えどころのない「ココロ」を取り出して客観的に観察できるようにし、その取り扱い方を冷静に見つめる手法は、まさに2020年という時代に必要とされるものになっていました。
待たされたといえば、30年近く待たされたこの作品。1991年に邦訳が刊行された『ゴースト・ドラム』の続編が、
クラウドファンディングで刊行されました。極寒世界を舞台に誰も幸せにならない血みどろの物語が展開されます。待ったかいがあり、極上の暗黒ファンタ
ジーを堪能させてもらえました。
2歳上の幼なじみに執着する小4女子の物語。成長に伴い変化する心の距離をいかに適正に調整すればよいのかという難問に、ちょうどよい温度の答えを出しています。
自分のつくった俳句がほかの子に盗作されて賞を獲ってしまうという地獄のような状況から物語が始まります。しかしそれほど深刻な話にはならず、俳句という表現の活動を通して自分を解放する女子二人の姿がさわやかに描かれています。
宇多天皇と黒猫の平安友情ストーリー。相互
ツンデレのいちゃいちゃが微笑ましい作品ですが、
宇多天皇と
藤原基経の政争が激化する終盤は物語が熱く燃え上がります。長く読み継がれる猫児童文学になってほしい作品です。
ナンセンスギャグで飛び抜けていたのはこの作品。「生首のコン
トロール方法」とか「首カチンコチン病」とか「ろくろ巨人」といった異次元のワードが頻出し、人間とは異なる価値観を持ったろくろ首の一家が暴れ回ります。
2020年は、新進気鋭の作家の活躍が目立ちました。2019年に『あの子の秘密』でデビューした村上雅郁の第2作『キャンドル』も、デビュー作同様に技巧・テーマ性・美しさの三拍子そろった傑作でした。村上作品は仕掛けが多いためあらすじを紹介できないのがもどかしいです。
第60回
講談社児童文学新人賞受賞作『保健室経由、かねやま本館。』でデビューした松素めぐりは、シリーズを早くも3巻まで進めました。傷ついた中学生のための期間限定の湯治場「かねやま本館」に迷いこんだ中学生たちの物語。2巻以降は出会いと別れと再会のメロドラマとして読者の感情を強く揺さぶるようになり、エンタメ性とテーマ性を両立させた安定感のあるシリーズになりました。
第21回ちゅうでん児童
文学賞大賞受賞作。信州の寒村に住む高3女子が卒業式前日に、山村留学で都会からやってきた男子と過ごした7年あまりの日々を回想する物語です。この作品の感想は、美しいの一言で終わってしまいます。未読の方は、ぜひ実際に読んで新人とは思えない描写力の高さを確認してください。
ところで、有沢佳映も『お庭番デイズ』で単行本3作目なので、作品数だけでいえばまだ新人作家と呼ばれてもおかしくないんですよね。こういういやみをいわなくてすむように、『お庭番デイズ』の続編を、可及的!すみやかに!お願いしたいです。