- 作者:山下みゆき
- 発売日: 2020/03/24
- メディア: 単行本
序盤で目を引くのは、おばあちゃんの暴君っぷりです。誠矢の計画を知ったおばあちゃんは、それを阻止するために貯金箱や貯金通帳を取り上げます。誠矢は大事なハガキを机の鍵のかかる引き出しに隠していましたが、それは机ごと破壊され奪い取られてしまいます。しかもおばあちゃんは自分では手を下さず、母親に命令して机を壊させていました。母親は不気味に笑っています。いや、これ家庭内洗脳とかじゃないの、怖すぎでは。
ただ、読む進めていくとこの作品の意図するところはリアルなホラーではなかったということがわかります。おそらくおばあちゃんの暴力性は、往年のユーモア児童文学のノリのキャラづけのようです。そして、物語は夏休みに少年が田舎で自分のルーツを知るという王道の展開をみせます。その田舎は河童が出てくるような温度の田舎。とても懐かしい感じの児童文学になっていました。
おもしろいのは、W主人公の物語としているところです。もうひとりの主人公は勉強はできるけど運動は苦手で周囲から侮られている梶野くん。誠矢は芸術家肌で不思議な体験をしてもあまり気にしなかったりするので、梶野くんがつっこみを入れて物語の舵取りをします。梶野くんは誠矢のマイペースなところに癒やされたり励まされたりしていて、まったりとした友情を築き上げます。梶野くんの存在によって定型の物語に奥行きが生まれ、読ませる作品になっていました。