- 作者:パトリック,S.A.
- 発売日: 2020/12/21
- メディア: 単行本
ハーメルンの笛ふき男の伝説は、多くの人々の想像力を刺激しています。訳者あとがきで紹介されている阿部謹也の『ハーメルンの笛吹き男 伝説とその世界』も名著ですし、児童文学読者であればエンデの『ハーメルンの死の舞踏』を思い出すことでしょう。そうした最高の素材をメインとし、さらに古城の地下牢に閉じこめられた鉄仮面の囚人・死骸で作るマジックアイテム・死の呪い・魔女が操る人形など、いささか古風な怪奇趣味で味付けがなされています。
登場人物は癖のある人物が多くて楽しいです。まず主人公のパッチが、軽はずみに禁呪を使ってしまうような人物で、まったく信用できません。パッチの仲間になるレンは、魔法でネズミの姿にされてしまった女子ですが、彼女も嘘つきでいい根性をしています。ドラゴンの母とグリフィンの父を持つドラコグリフのバルヴァーが、見た目はごついけど仲間のなかでは唯一の癒やし枠になっています。
1巻の時点では、斬新さや深いテーマ性は特に見当たりません。でも、そこがいいのです。冒険活劇ファンタジーとしてただ物語のうねりに身をゆだねるのが、この作品の正しい楽しみ方です。三部作のようなので、無事最後まで翻訳が出ることを祈ります。