『若おかみは小学生! スペシャル短編集3』(令丈ヒロ子)

若おかみ短編集の3巻。中2のおっこが水領さまのいとこに惑わされてしまう「キラキラすぎる!? 「恋」アプリ」と、おっこの娘として転生し前世の記憶を失った美陽が主人公となる「若おかみは三代目!」の2作が収録されています。
「キラキラすぎる!? 「恋」アプリ」は、2020年のいつもとは違う夏休みを過ごす子どもたちに向けたWEB連載企画「Story for you」掲載作をふくらませたものです。そのため、おっこもマスクをしていて、春の屋旅館でもリモート宴会プランやテレワークおこもりプランが企画される世界となっています。真月さんは通常営業でピンふりマスクをしているのはご愛敬。おなじみのキャラクターたちもマスク生活をしている様子をみて、多少なりとも不安が軽減された子どもはたくさんいるものと思われます。
「若おかみは三代目!」は、美陽が転生したみくるの中1時代の物語。真月さんの娘の星良、よりこの娘のイチカも同級生で、3人でVR第二研究会というVRゲームをしつつまったり過ごすだけのやる気のない部活をしていました。みくるは頭のかたい古おかみのおっこでなくゴージャスで先進的な真月ママ様を崇拝していて、古書を愛する地味派マイペース女子の星良はむしろおっこが好きで、イチカイチカで元アイドルで現在は医師として活躍している知性派美女の鞠香先生に憧れています。そして、みんな生まれてくる家を間違えたと嘆いています。
これが二代目に主役交代した児童文学のつらいところで、『魔女の宅急便』のキキなんかも、母親になってしまうと自分の子どもにはつまらないことしかいえなくなってしまっていました。みくるは春の屋旅館に新しい客を呼びこむため真月ママ様のように斬新な企画を立てようとしますが、昔からの客を大切にしようとするおっことは衝突してしまいます。
ここで問題になるのは、おっこの持つ二重の保守性です。おっこはもともとおばあさんのような女子でしたが、老舗の春の屋旅館と温泉町を存続させる使命感からさらに保守的になっています。もっと問題なのは、小学生のあの時期の特殊な体験です。成長することのないユーレイのウリ坊と美陽と過ごした日々のせいで、停滞を志向する心性が強化されました。大人になってもその性質はそのままで、小川未明安房直子の童話に出てくる人物のように、なにかあると異界に引きこまれそうになる危うさを持っています。ただし、家族や地域とのつながりがおっこをきちんと現世に引き留めてくれるので、そこはあまり不安に思わなくてよさそうです。
しかし、美陽は選ぶことができたんだから、真月さんの娘になればよかったのに。転生して記憶を失ったとはいえ、実の妹を「ママ様」と呼んで崇拝する倒錯を描いてしまえるところに、令丈ヒロ子の百合児童文学作家としての業の深さが感じられます。