『かるいお姫さま』(ジョージ・マクドナルド)

かるいお姫さま

かるいお姫さま

『金の鍵』と同時に、モーリス・センダックの挿絵のついた『かるいお姫さま』の愛蔵版が刊行されました。『金の鍵』はひたすら美的な世界を堪能するタイプの作品だったのに対し、『かるいお姫さま』はおとぎ話パロディで笑える要素も多いので、なじみやすいです。
発端は、お姫さまの洗礼式に呼ばれなかった魔女に呪いをかけられるというお約束どおりです。しかし、その魔法が重力を制御するものだというのは新しい感じがします。お姫さまは重力のくびきから逃れ、ふわふわ空中に浮き上がってしまうようになります。ただ、軽いのが体だけだったらまだよかったんですよね。問題は脳の方も軽くなってしまったことで、いつもけらけら笑うばかりで知性や感情が欠如していました。
センダックの描くイラストは、ここでは愉快な方向に働いています。センダックは赤ちゃんもおっさん顔に描くので、窓の外に浮かんでいる赤ちゃんのイラストはホラー味とおかしみが同居しているなんともいえないものになっています。なぜか水中では呪いから解放されることになっていたので、お姫さまはオフィーリアごっこなどを楽しんでいました。そのイラストも笑えます。
王様は呪いを解くために、中国の哲学者の知恵を借りようとします。この唯物論者と唯心論者ふたりの哲学者の屁理屈合戦も秀逸なギャグになっています。
『金の鍵』とはまったくテイストが異なりますが、こっちはこっちでよい作品でした。