『きみのいた森で』(ピート・ハウトマン)

きみのいた森で (海外ミステリーBOX)

きみのいた森で (海外ミステリーBOX)

2019年のエドガー賞児童文学部門を受賞したSF児童文学。森で遊ぶのが大好きな少年スチューイは、おじいちゃんからひいおじいちゃんの話を聞くのが大好きで、密売人だったというひいおじいちゃんに憧れて人殺しの密売人になりたいと思っていました。おじいちゃんが亡くなった翌年の9歳の誕生日の前日に、スチューイは運命の出会いを果たします。同じ誕生日の女子エリーと出会い、すぐに親友になります。
物語の序盤のみどころは、ふたりが森で遊ぶ場面です。妖精や幽霊の存在を半ば信じているふたりの空想遊びの楽しそうなこと楽しそうなこと。しかも森には、迷彩服を着てキノコをあさる怪人キノコ男も出没します。ふたりの秘密の場所が同じであったという偶然も嬉しいです。スチューイにとっては倒木のテントで、エリーにとってはローズ城。これは、同じはずの事象が認識によって異なってしまうというSF的なテーマの布石ともなっています。
物語が動くのは、森のなかでエリーが行方不明になってから。あるいは、スチューイが行方不明になってから。ここでなぜか、エリーが行方不明になった世界線とスチューイが行方不明になった世界線が分岐してしまい、森のその後の運命も変わってしまいます。引き離されたふたりは再会することができるのか、SF的なエモが中盤から物語を引っぱっていきます。
家族の歴史の精算もテーマに組みこみつつ、世界を修復するということについてSFと児童文学のふたつの側面から斬りこんでいく仕掛けがうまいです。エンタメ性も十分で、エドガー賞受賞も納得です。
ところで、印象的な登場人物キノコ男の名前が著名なSF作家と同名のグレッグ・イーガンになっているのですが、これは間違いなく故意に名づけたのでしょうね。