『町にきたヘラジカ』(フィル・ストング)

町にきたヘラジカ (児童書)

町にきたヘラジカ (児童書)

かつて学研から1969年に刊行された『町にきたヘラジカ』*1徳間書店から復刊。訳は瀬田貞二先生なので、良質であることは請け合いです。
ミネソタ州のビワビクという寒い町が舞台。ワイノとイバールという少年がヘラジカを狩る空想をしながら帰宅すると、うまやに本当にヘラジカがいました。そこから町中を巻きこむ騒動が起こります。
いちばん大きい牛よりはるかに大きいというヘラジカのスケールは、想像しやすくてちょうどいい感じです。体は巨大ですが、くっちゃ寝しているだけで身体的な危害を加えられるような脅威はあまり感じられません。ただし大人が読むと、ヘラジカがむさぼっている草はタダではないということを考えると顔が真っ青になってしまいます。
ふたりから話を聞いた父親は、まさかそんなことあるまいと思ってヘラジカに遭遇して驚愕、次に呼ばれた駐在さんも冗談だと思っていたのにヘラジカと顔を合わせて戸惑います。こんな天丼ギャグが繰り返されるうちに騒動が拡大していくさまが愉快です。
町は雪に覆われていますが、作中人物たちも作品世界の空気ものんびりとしていて心地よいです。ゆったりとした時間を楽しめる良作です。

*1:原書の刊行は1935年。