『がろあむし』(舘野鴻)

がろあむし

がろあむし

  • 作者:舘野 鴻
  • 発売日: 2020/09/16
  • メディア: 大型本
独特の昆虫絵本で知られる舘野鴻の新作。まず、カバー全体を覆うビッグサイズのがろあむしの姿に圧倒されます。しかしページをめくると鳥瞰で川と町にはさまれた森が描かれます。そこから主な舞台となる、森の土の世界に迫っていきます。序盤に世界のスケールを攪乱することで、読者の視点を虫の視点とあわせる、巧妙な演出です。
土の世界は、あまりにも過酷な生存競争の世界でした。捕食しているときは隙ができるので、ほかの生き物に襲われるかもしれない、一時も気を抜けない世界です。身体を損傷したらそこは修復されることはなく、傷はどんどん増え生き延びるほどに生存はより困難になっていきます。おなかをすかせてどうしようもなくなったときに救いの手として現れるのは、交尾しようと近づいてきた哀れな雄のがろあむし。この状況で栄養源がむこうから寄ってくるのは、奇跡のような僥倖にみえてきます。
がろあむし視点の蛇は途方もなく巨大で、まるで竜のようです。蜘蛛も怪物にしかみえません。ここでは、トールキンの世界が現実なのです。土の世界から感じられるのは、人類の恐怖の根源です。