『人類滅亡フラグがたちました! 』(令丈ヒロ子)

7人の中学1年生がカンノン像のような宇宙人に拉致されました。このままでは地球は終わってしまうと憂えている宇宙人は子どもたちに理想の世界を問い、それをシミュレーションしてみせます。しかしその結果はすべて人類滅亡。枠物語形式のSF短編集となっています。
はじめの物語は、伝説のホラー短編「いちごジャムが好き。」のリメイクで、『愛し合う人同士が、永遠にラブラブでいられる世界』のシミュレーションです。片割れが死んで融合するというかたちで「ラブラブの完成形」に到達したカップ*1は、その幸福を動画で世界中に伝播し、結果人類は滅亡します。その後も中学生たちの出す理想の世界のアイディアはことごとく滅亡を導きます。
驚嘆すべきなのは、各短編のSFとしてのバラエティの豊かさと完成度です。けものフレンズあり、パーフィット的な同一性の議論ありと、様々な趣向で滅亡の運命を楽しませてくれます。
作品で問われているのは、人類にとって幸福とはなにかという難問です。ラブラブで死んだり洗脳されたりしていても当人はハッピーなケースもあり、なかなか複雑です。そもそも人類は幸福という現象に向いていないのではないかという疑念すら持たされてしまいます。
極上のブラックユーモアで味つけされた高度なSF児童文学として評価されるべき作品です。

*1:これを指摘することはもはや野暮かもしれないが、このカップルは同性カップルである。しかし作中では誰もそのことに頓着しない。もちろん同性愛によって人類が滅ぶという話ではない。