『銀河へのエレベーター』(金重剛二)

1971年理論社刊のSF児童文学。タイトルにある、デパートのエレベーターが宇宙につながっているという奇想は楽しげですが、内容はなんとも不気味で暗い侵略SFです。
まず、主人公の造形からして暗いです。小学6年生の幸平は、心臓弁膜症のため体が弱く、いつも口を開けてよだれを垂らしているという設定になっています。この幸平と歯医者の息子でクラスの委員長の兵吾の二人組が主人公となります。クラスの不良グループの生徒がなぜかみんないい子になってしまい、二人組が不良グループは宇宙人と入れ替わっているのではないかと疑惑を持つところから、物語は始まります。
宇宙人が正体を現す場面の場面の迫力はなかなかのものです。二人組は、夜8時に不良グループの集会をのぞき見します。集会場所は映画館の隣の狭い隙間で、彼らは影のような黒い姿に変貌します。映画館でやっている西部劇のセリフが漏れ聞こえてくるのがよい演出になっていて、緊迫感が増しています。
その後不良グループのリーダーも候補として名乗り上げたクラス委員選挙がおこなわれ、学校内政治の闘争という側面もみせてきます。兵吾は50人のクラスメイトを統率することに真面目に使命感を持っていました。現在の学校の地獄感とは異なりますが、ここにも当時なりの地獄があるようです。

イラストは大古尅己。70年代から80年代の児童文学ではよく見た絵柄ですが、子どものころはどちらかというとゆるい画風だと思っていました。ところが、あらためて見てみるととんでもない。像のゆがめ方や背景の処理がスタイリッシュで、とてつもなく怖いです。