『シルリアのひとみ』(奥山和子)

1975年理論社刊のSF児童文学。様々な宇宙人が地球で生活している23世紀の未来を舞台にした宇宙冒険活劇です。太陽系パトロール長官の父を持つユリカは、宇宙銀行の貴重品預かり証である銀の腕輪をつけられていました。山育ちのユリカがトウキョウの銀河小学校に転校したところから物語は始まります。隣の席になった男子ジェードと仲良くなり、彼の仲間たちとともに腕輪の謎を探ることになります。その謎は、地球から三万光年離れたシルリアという星とユリカを結びつけます。
謎めいたアイテムを持っていることから、ユリカに出生の秘密があることは容易に予想できます。というか、はじめの登場人物紹介欄に「シルリア星王女イオンの娘」って書いちゃってるんですよね。だたし、ユリカは仲間からお姫さま扱いされません。宇宙船の操縦も任されますし、レーザー・ガンをかまえてトカゲ型宇宙人と対峙したりもします。
作中のネーミングがいちいちかっこいいのも魅力です。ジェードの率いるグループ名が「コールサック」、つまり石炭袋だったり、性別のない宇宙人の名前が「モルフォ・ラピスラズリ」だったり、珍しい飲み物の名前が「サリナの蜜」だったり。
イラストはまだデビューしたばかりの原ゆたかです。いまとなっては「かいけつゾロリ」シリーズで明・陽のイメージがついていますが、その明るい世界は陰影を描く確かな技術に支えられています。初期作品のこれではその面が顕著に見られます。特に、終盤に登場するシルリアの神像が、ゆるいユーモラスな顔つきなのに薄暗い神秘性も兼ね備えていて、圧倒的な存在感を放っていました。