『莉緒と古い鏡の魔法』(香坂理)

第11回朝日学生新聞社児童文学賞受賞作。影が薄い系女子の莉緒は、突然のなりゆきでアンティークショップの洋館で暮らすことになります。そこにあった小箱から人の願いを叶える力を持つが危険なチャームが飛び出してしまいます。莉緒はチャームにとりつかれた人々を助けるために奮闘します。
負の感情を増幅させる魔法的なものと戦うという設定は、女児アニメでよくみられるものです。そのため、小学生読者にはなじみやすい作品になっているはずです。
小6に進級したばかりの莉緒の当面の悩みは、新1年生の世話をするためのグループづくりでした。クラスの中心的な子どもたちはモデル体型のハイスペック女子宮野菜々海の取り合いでもめていましたが、莉緒はとりあえず所属できるグループを確保する心配で精一杯でした。気疲れして学校図書館に避難したところ、そこでこっそりマドレーヌを食べていた宮野菜々海と遭遇。「忍びの者みたいだね*1」と声をかけてきた菜々海に学校でこっそりお菓子を食べるという悪事の共犯者にされ、意気投合します。そして神社の子だから魑魅魍魎に憑かれているといじめられていた椿ちゃんも引きこんで、無事女子3人のグループができあがります。
ところが、この宮野菜々海がとんでもない魔性の女で、チャームにとりつかれるのは菜々海への感情でおかしくなる女子ばかりになります。椿ちゃんははいきなり菜々海への独占欲を丸出しにし、「わたしは菜々海だけといたいし、わたしだけ好きでいてほしいし、菜々海と同じになりたいの。菜々海が大好きなの!」と病み発言をします。さらに、クラスで菜々海の次にキラキラしている女子の音花が、高跳び*2で菜々海に勝てないことで思いつめてしまい、長い髪が跳べない原因だと思って切ろうとするまでになってしまいます。宮野菜々海、罪作りな女で困ったものです。
さて、莉緒の方の物語は、子どもは放っておくと不良化すると決めつけるタイプの毒親との対決という方向に収束していきます。勇気を出して毒親と対話を試みてもああいう結果に落ち着くというのは、現代の児童文学という感じがします。

*1:この「忍びの者」という表現が最高じゃないですか。莉緒の存在感のなさをかっこよくポジティブに言い換えていると同時に、ここが学校図書館であるという文脈も考える必要があります。つまり菜々海も『ホビットの冒険』の読者であり、学校図書館の民である莉緒と同じく瀬田貞二の子どもであるというほのめかしであるという……のはさすがに考えすぎか。

*2:高跳びで激重感情といえば、『HUGっと!プリキュア』が記憶に新しいところですね。