『月にトンジル』(佐藤まどか)

トールとダイキとシュンとマチの4人は、「テツヨン」という仲良しグループを作っていて、土曜の午後は必ずみんなで公園に集まって遊ぶ習慣になっていました。しかし、メンバーのひとりのダイキが引っ越してしまったことから仲間の絆は崩れ、土曜の習慣もいつしか自然消滅してしまいました。4人の関係の永続を無邪気に信じていたトールは、思わぬ展開に悩みます。
佐藤まどかは、小説のかたちで物事をシミュレーションすることを好む作家のようです。魔法の力によって階級社会が形成されるというファンタジー設定で天下国家の動きをシミュレーションした「マジックアウト」シリーズ、学校に人間と区別のつかないアンドロイドをまぎれこませるというSF設定で学級集団の動きを観察した『つくられた心』、現実世界を舞台にしているが子どもをリアリティーショーに出演させるという極悪な設定で洗脳プログラムの一部始終をなぞってみせた『世界とキレル』などが代表例です。この『月にトンジル』はそういった極端な設定はないリアリズム作品なので文学性や情緒を重視した作品のようにもみえますが、中心人物が消えることでどのように集団が崩壊するのかという冷静なシミュレーションが本質です。
祖父が遺言のように「月」と「トンジル」のたとえ話で人のままならなさを説いた導入部が出題と解答で、後は答え合わせが続くという整然とした構成になっています。人間関係はメンテしなければ持たず、メンテしていたとしても時間経過には耐えられないという身も蓋もない現実をつきつけてきます。幼少期からのなんとなくのつながりに絶望しつつあるトールが趣味のつながりに活路を求めるが、今度は周りのレベルが高すぎるためになじみにくくなってしまうという意地の悪い展開には、思わず乾いた笑いがもれてしまいます。
この冷たさと露悪性がこの作品の持ち味。佐藤まどか作品のなかではいまのところこれが一番好みです。