『パラゴンとレインボーマシン』(ジラ・ベセル)

まずは、虹色のエフェクトとともに屹立するロボットのかっこよさが際立つカバーイラストを堪能しましょう。
水が不足して戦争が起こりインフレも発生して生活が大変になった近未来のイギリスを舞台にしたSF児童文学。父親が出征していて母親と窮乏した生活をしていた11才の少年オーデンは、変死した天才科学者のおじからうけついだ「もとは公衆トイレです、って感じ」の家に引っ越しします。そして、人間の相棒と人間ではない相棒との運命の出会いを果たします。
作中の空気は暗いです。生活は苦しいし、おじの死にも当然裏がありそうで、怪しげな陰謀の世界に巻きこまれていきます。転校先の学校では暴力的な生徒が威圧してきて、こちらでも気が休まりません。しかし、そんな状況であるからこそ運命の出会いの光明が引き立ちます。
人間の相棒は、おじの遺言書で「シックス・シックス」という謎めいた暗号で呼ばれていた少女です。この子は「史上最高に勇敢でかしこい女の子」で、おじの遺産をめぐる冒険の最強のパートナーになります。
もうひとりの相棒は、知性を持つロボットのパラゴン。エドワード・リアのナンセンス詩を暗唱したり手品を披露してくれたり、人間よりも落ち着いた知性をみせて少年少女を導いてくれるパラゴンの存在が、この暗い世界での一番の救いです。この作品のよさの八割方はパラゴンの魅力が担っているので、読者はとにかく、主人公と一緒にパラゴンのことを好きになればよいのです。あとは多くを語るまい。