『先生、感想文、書けません!』(山本悦子)

八月一日の登校日にひとりだけ宿題の読書感想文を書けなかったみずかは、「わたしには、感想文、むり!」と堂々と言い放ちます。帰り道に友だちのあかねと感想文が書けない理由を話し合ったみずかは、あかねが主人公の話をつくってその感想を書くという奇策を思いつきます。
担任のえりこ先生は、感想文は「思いを言葉にする練習」であると説きます。これはたしかに正論ですが、みずかの「むり!」を解消させる手助けにはなりません。しかし、あかねとの話し合いのなかで徐々に問題点が洗い出されてきます。
なかよしのふたりですが、話のなかでふたりの違いが明らかになっていきます。かなしい話が嫌いなみずかに対し、あかねは「こうふくの王子」を読んで「そういうのもいいな」*1と思ったりします。そして、あかねは作中人物の気持ちになって考えることができるのに対し、みずかにはそれが難しいことがわかってきます。その解決のために友だちを主人公にした話をでっちあげるというのは、理にかなった方策です、
この作品のおもしろさの中心はみずかとあかねの掛け合いにあります。理屈を積み重ねながら時に飛躍して物語をつくっていく過程が楽しいです。その過程のなかで、人と人とのあいだの断絶を想像力によって乗り越えられる可能性が探られます。
暴れ回るみずかとあかねの想像力に併走する佐藤真紀子のイラストもすばらしいです。特に、76,77ページの躍動感がたまりません。

*1:オスカー・ワイルドを読んで「そういうのもいいな」と思う感性、大事に育ててほしい。