『予測不能ショートストーリーズ  文化祭編』(にかいどう青)

『恋話ミラクル1ダース』に続く、にかいどう青のショートストーリー集。Y市立未良来中学校の文化祭期間の物語が12編収録されています。現在の児童文学界でもっとも物語を愛している作家であるにかいどう青らしく、さまざまな趣向で読者をもてなしてくれます。戯曲形式であったり、選択肢で分岐して本の上下段で別のストーリーが展開される形式であったり、そもそも最初の作品が小説ではなくまんがであったり、多種多様な驚きを与えてもらえます。そのなかから特に好きな話をいくつか紹介します。
「OTG☆☆☆」*1は、文化祭で上演された中学生のオリジナル脚本の劇という設定の戯曲です。おとぎ話パロディの話ですが、この作品のよさは本当に中学生がノリと勢いだけでつくったという感じがうまく再現されているところにあります。冒頭の登場人物紹介をみればその空気が伝わると思うので、少し引用します。

シンデレラ…くいしんぼう
魔女…………かぼちゃは専門外
佐藤さん……だれ?
ケルベロス…地獄の番犬

「浮遊感覚スカイウォーカー」は、空気が読めず学校で浮いているために体も浮き上がるようになった少年の物語。かんべむさし中井紀夫のSF短編にも類例のあるネタですが、お約束の結末の悟りきった叙情性には感嘆させられます。
わたしが最も好きなのは、「ビー玉メモリーズ」。先生に告白してふられるたびに薬でつらい記憶を消してもらい、また告白してふられることを繰り返す女子の物語です。何度試行しても報われない恋の美しさと気高さに圧倒されます。
「ビー玉メモリーズ」もそうですが、この作品集では記憶喪失にタイムスリップに選択肢型のAVGに未来予知と、手を変え品を変えループもののような趣向が繰り返されています。試行を繰り返すなかで成功したりしなかったりする人生の歓喜と悲哀がこの作品集の味になっています。そんななかで輝きを放つのが、ろくろ首の一族なのに手首が伸びるようになった女子を主人公とする最後の短編「ろくろ首心化論」ですが、ネタばらし配慮のためこの感想は以下に白文字で記します。

TV版ウテナ最終回であったり、破であったり、手を伸ばすというクライマックスにわたしたちは何度も泣かされてきました。ですから、それをそのまま提供されてもそれなりには感動できるはずです。しかし物語の類型を知り尽くしているにかいどう青は、幾重にもひねくれてみせてその破壊力を極限まで上げました。
ループものの話を繰り返しながら最終エピソードは一発勝負にしたこと。それでいてきちんと完結していたはずの前のエピソードをひっくり返したこと。そこにろくろ首の手首が伸びるというおもしろ要素を入れたこと。落下する相手を引き上げるのではなく上昇する相手を引き戻すという転倒をみせたこと。これだけの布石を打ってから王道のクライマックスに到達させたのです。にかいどう青は、本当に油断のできない作家です。

*1:『恋話ミラクル1ダース』にも本作にも思春期のメンタル混乱が不思議現象につながるという世界谷っぽさがありますが、この「スリースターズ」というタイトルも梨屋アリエオマージュであるというのは考えすぎでしょうか?