『ブレーメン通りのふたご』(蓼内明子)

『さるも木からおちる』というちょっと変な名前の甘味処、そこにいるのは店主の園子さんと、その孫のふたごマキとカツラ。さらに、客としてもう一組の自称ふたご、まりあちゃんとえりあちゃんというおばあさんが入ってきます。なぜか引き合うところのあった二組は、プチゆうかいされる・するという関係になり、マキとカツラはまりえりのアパートによく出入りするようになります。
あらすじを紹介することには、あまり意味はありません。まだ少ない著作で蓼内明子は、人生の積み重ねのうえにある人間の多層的な姿を描き出す確かな技を証明しています。この作品でも、読者はその技の冴えを堪能させてもらえばよいのです。
さいころ父親から聞かされていた「こもりばなし」のこと、マキが友だちの犬に「うずまき」という尖った名前をつけたこと、母親が反抗期だった時代に、祖母とりんごの重量当てゲームをしたこと。物語は過去と現在を自在に行き来し、断片的ながらも魅力的なエピソードを積み上げていきます。
ふたごの父親は音響機器メーカーの研究員。その影響もあって、マキは幼いころから声や音に並々ならぬ興味を抱いていました。この『声』というテーマが断片的なようにみえたエピソードをつなぎ合わせ、そして解放していくさまは、みごととしかいいようがありません。