HAPPY THOUGHT
The world is so full of a number of things,
I'm sure we should all be as happy as kings,
『宝島』『ジキル博士とハイド氏』のスティーヴンソンの詩集。翻訳は池澤春菜と池澤夏樹です。
詩で語られるのは、幸福な幼年です。これらは、あまりにも理想化されすぎているのではないかとも思われます。ただし、詩の核になっているのは空想遊びの楽しさなので、どんな境遇の読者にもある程度は開かれています。ベッドは船になって航海に乗り出すことができ、木に登ると妖精の国までも見渡すことができます。空想力に満ちた視線は現実の世界のよきものもたくさん発見し、この世界の幸福な側面ばかりを映し出します。
池澤春菜によるまえがきでは、「ぼく」という一人称を採用して訳した理由が、演技者としての経験を踏まえて説明されています。ここでの「ぼく」はジェンダーレスで年齢も関係ない、誰の中にもいる幼年の存在です。そして池澤夏樹は、詩に添えた短いコメントで、まさに「ぼく」としてふるまってみせます。
子供の空想の一つに小さくなるというのがある。草が木に見えるくらいのミニチュアの自分。だから葉っぱがボートになる。ぼく(夏樹)にはゼニゴケが空から見た椰子の木の林に見える。試してください。本当だから。
こうして、あまりにも理想的で天上の存在にも思えるような幼年の庭が、私たちの手にも届きそうな地上に引き寄せられます。
優れた案内人がいれば名作はより輝きを増すという当たり前のことが、あらためて実感させられます。池澤春菜・池澤夏樹の導きとマートル・シェルドンのイラストによって、あきれるくらい美しい本になっていました。