『クーちゃんとぎんがみちゃん ふたりの春夏秋冬』(北川佳奈/作 くらはしれい/絵)

これは、板チョコレートのクーちゃんと、なかよしのぎんがみちゃんの、とろけるようなたのしい毎日のお話です。

という、本の冒頭に掲げられた紹介文の「とろけるような」という表現に一切の誇張はありません。むしろ控えめすぎるくらいです。百合童話の新たなスタンダードが登場しました。
春のはじめの日から年越しまで、ふたりの宝石のようにきらめく日々が描かれた8編のエピソードが収録されています。
最初の春の日の話から、幸福感に満ちています。クーちゃんは春の陽気に浮かされて、特別な記念日でもないのにぎんがみちゃんになにかおくりものをしようと思いつきます。示しあわせたわけでもないのに、ぎんがみちゃんも同じことを考えます。クーちゃんのおくりものは道ばたの花で、ぎんがみちゃんのおくりもの真昼の月。もらったほうはそれぞれ「冬のわすれものみたいな花」「ゆでたての、しらたまみたいな月」とすてきにかわいらしい言い方で喜びを表します。
話が進むに従って、ふたりの性質の違いも明らかになってきます。クーちゃんはおしゃれが好きで、ぎんがみちゃんは音楽とシンプルな暮らしが好き。この違いがまたかわいらしさとおかしさを無数に生み出していきます。
ふたりで海水浴に行く話では、クーちゃんは旅行かばんに大荷物を抱えて登場、「なくてもいいもの」を省いたぎんがみちゃんの荷物はちょっとだけと対照的。クーちゃんのかばんからはおむすびに夏みかんに浮き輪といろいろなものがとびだし、楽しいお出かけにさらに花を添えます。帰りの列車内でのぎんがみちゃんのコメントが、

「思ったんだけど、なきゃないでいいものって、あるととってもうれしいね」

それに対してクーちゃんはなんと応えたでしょうか。模範解答はこれです。

「うん。でも、ぎんがみちゃんはそのままでいいよ」

おたがいの足りないところを補いあい、肯定しあい、慈しみあうふたりの関係性、これを人は完璧と呼びます。ぜひシリーズ化して、もっとふたりの幸福のお裾分けをしてもらいたいです。