『ふたごチャレンジ!  「フツウ」なんかブッとばせ!!』(七都にい)

(それは世間が、ゆるさない)
(世間じゃない。あなたが、ゆるさないのでしょう?)
(そんな事をすると、世間からひどいめに逢うぞ)
(世間じゃない。あなたでしょう?)
(いまに世間から葬られる)
(世間じゃない。葬むるのは、あなたでしょう?)

太宰作品の名言のなかでも特に人気のあるやつですね。これをさらに現代風に言い換えると、それって「たかが気持ちの問題」でしょ、ということになるようです。世間の常識、社会の秩序とされているものは「たかが気持ちの問題」であるとわかりやすく看破したことが、この『ふたごチャレンジ!』の大きな成果でしょう。
第9回角川つばさ文庫小説賞金賞受賞作。内容は、いままでも無数に生み出されてきたとりかへばや物語です。サッカー好きのあかねとおえかき好きのかえでは、世間から好ましいとされるジェンダーロールから逸脱したふたご。理解があるかにみえた両親もふたりが大きくなるとジェンダーの鋳型に押しこめようとするようになります。10歳のお誕生会でジェンダーにあうとされる衣装を着るように両親から強要されたことでふたりは絶望し、「『自分』とのおわかれ会」みたいと述懐します。そして世界への反抗を決意し、転校先の学校で入れ替わって過ごすようになります。
ふたりは明確に常識への反逆を志しているので、共犯者としての高揚感と周囲を騙しているという罪の意識を共有しており、これが作品世界の空気をかたちづくります。そしてふたりともそれぞれ、嘘によって誰かを傷つけてしまい加害者になるという経験をします。かえでの方は、男子から好意を持たれます。このあたりは少し前のフィクションではホモフォビックなギャグで流されてしまいかねない展開ですが、この作品では注意深くケアがなされており、新時代の作品という感じがします。
1巻は、入れ替わりを周囲に告白することと、性別で参加できるクラブ活動を差別している校長との対決で一段落。まだまだシリーズは始まったばかりなので、今後の展開を見守る必要があります。