『世界を超えて私はあなたに会いに行く』(イ・コンニム)

振り返ってみると2021年は、書簡体時間SFの当たり年だったんですね。SFファンの多くは毎月伴名練の連載『百年文通』を楽しみにしていましたし、ヒューゴー賞他多数の賞を受賞したという触れ込みで翻訳されたアマル・エル=モータルの『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』にも夢中になったものでした。そしてトンネ青少年文学賞大賞受賞作のこの韓国のヤングアダルトSF『世界を超えて私はあなたに会いに行く』も翻訳されていました。
時代は2016年、主人公は15歳の女子ウニュ。父とふたりで暮らしているが父は不在の母についてなにも語ってくれず、最近再婚相手候補の女が接近してくるようになり家出も考えているという、そんな状況です。父に促されて1年後の自分に宛てた手紙を出したところ、それが1982年に暮らしている同名のウニュという女子に届き、返信が来ます。はじめは事態が飲みこめずお互い変なやつだと思っていましたが、文通を繰り返すうちにかけがえのない絆を築いていきます。
SFファンが書簡体時間SFに期待するのはなんといってもエモでしょう。連絡手段や情報が限られているなかで徐々に明かされる真実、育っていく感情、『百年文通』や『時間戦争』もそうであったように、それらが生み出す強力なエモが醍醐味です。
『世界を超えて私はあなたに会いに行く』では、現在のウニュと過去のウニュの時間の流れ方の違いが、エモを生み出す重要な仕掛けになっています。現在のウニュにとっての1ヶ月で過去のウニュの時間は数年流れており、現在のウニュから見ると過去のウニュは子どもからあっという間に一人前の女性になってしまいます。過去のウニュからしたら現在のウニュはいつまで経っても同じ15歳のままということになります。この現象がもたらすふたりの関係性の変化がみどころです。現在のウニュ視点では、自分のことを頭のおかしいお姉さんだと思って五百ウォンのコインを恵んでくれた生意気なクソガキが、すぐにもっとも信頼するお姉様になってしまいます。逆に過去のウニュ視点では、頭のおかしいお姉さんが長い時間をかけて最愛の妹になるわけです。
オチは容易に予想できるとおりなんですが、そこに向けてしっかり組み立てられた設定と手紙の文面の感情表現の豊かさによって、最後にはエモが爆発します。