『君色パレット いつも側にいるあの人』『君色パレット SNSで繋がるあの人』

〈多様性をみつめるショートストーリー〉と銘打たれたアンソロジーの第2巻と第3巻。いくつかの作品について、簡単に感想を記します。

高田由紀子「姫のゆびさき」

ネイルという趣味を隠している虹色と、「先天性四肢障がい」で右手の中指と薬指は極端に短いけどいつも堂々と振る舞っている咲姫の物語。虹色にネイルを塗ってもらった咲姫は、ひとりだけ私立中学に進学して自分のことを知らない人ばかりの環境に置かれることへの不安を吐露します。救う者と救われる者が反転して反転して、お互いの生きる道を示しあうという関係のあり方が美しいです。進学後のふたりがこのような深い関わりを持つことは、おそらくないでしょう。それゆえに、はかないひとときのやりとりの尊さが輝きます。
カバーイラストと本編の最後のイラストを連動させる演出は、ずるいです。

いとうみく「にじいろ」

ふたりの母親を持つ女子の話。いとうみく作品の特色は、よくも悪くも昭和感のあることころです。今回は、おでん屋という昭和感漂う空間にレズビアン婦婦を配置したミスマッチがよい方向に働いているように思われます。一方で、差別の構造を利用して自分の欲望を押し通した邪悪の権化がいい人然として描かれ断罪されないことには疑問が残りました。

如月かずさ「プロジェクト・チュウニ」

ユーチューバーを目指す男子の物語。まだ多くの大人からは白眼視されるこの職業に夢を持つことを全肯定したのが、如月かずさならではの先進性です。それにしても、時代を先取りしすぎていた『カエルの歌姫』がもしYouTuberやVTuberの地位が向上したもっと後に出ていたらどのような作品になっていたのかというのは、気になるところです。

佐藤まどか「ジルと柚」

学校での人格とネット人格を使い分けている女子の物語。強固な序列意識を持っていた主人公が自分より格下と思っていた相手にすがって拒絶され、自分自身と誠実に向きあうことを余儀なくされる厳しい展開がよいです。