『ガラスの顔』(フランシス・ハーディング)

表情を持たない人々が生活する地下の洞窟都市カヴェルナを舞台としたファンタジー。チーズ作りの匠に助けられた記憶喪失の少女ネヴァフェルは、階層世界であるカヴェルナを駆け回り、都市を揺るがす陰謀に挑んでいきます。
根本の設定だけを取り出せば、それほどオリジナリティのあるものとはいえません。地下世界にしても、表情がないという設定にしても、誰しもいくつか類作は思い浮かぶことでしょう。しかし、味付けの濃さとサービス精神はハーディングならではです。
巻末の謝辞は、たくさんの洞窟にも捧げられてます。それだけの洞窟を取材した成果をもとに、架空の地下世界が綿密に作りこまれています。そこに魔法のような効果を持つ食べ物を仕こんで、事態を混乱させます。さらに、クレプトマニアのクレストマンシーみたいな名前の怪盗をはじめとしたくせのあるキャラクターたちを配置し、一大エンタメ空間を築きあげました。
ハーディング作品の一番の名物といえば、勇敢で狡知に長けた少女です。ネヴァフェルもフェイスらと同等の魅力を持っていいます。作中では不可解な事件が起こり謎解きがなされるのでミステリ要素も強く、また特殊状況下での頭脳バトルものとしても熱い展開をみせてくれます。ミステリ要素のみに注目するのであれば、『嘘の木』に次ぐ満足感を得られることは間違いありません。

「あたしが得意なのは機械なの。機械って魔法みたいでしょ。長い時間をかけて計画を立てて、すべての歯車を配置して、パン! レバーを引くと動き出す。すばらしいのは、レバーを引く人がその仕組みを理解している必要はないってこと。なにが起きるかすら知らなくていい。あたしは機械みたいな計画を立てたい。」