『SNS100物語 黒い約束』(にかいどう青)

闇と百合とミステリのマエストロにかいどう青の青い鳥文庫での新作は、SNSのグループで百物語をする子どもたちの物語。語り手の中学2年生エルモがその美貌を崇拝している女子リコの発案で、仲のよい5人組が百物語をします。その目的は、メンバーのひとりネネネの亡くなった愛犬を復活させることでした。
5人の語る怪談と、SNS上での会話、そして現実での出来事と、物語には七つものラインが流れているので、一見複雑なようにみえます。しかし、各メンバーの怪談にそれぞれシリーズものを配置したり、七つのラインを終盤まで錯綜させないよう*1に工夫したりしているので、読者は混乱せずサクサクと読み進めていくことができます。
そして読み進めていくうちに、読者はある恐れを抱くようになります。この作品、一体いくつの時限爆弾が仕込まれているのかと。もっともわかりやすい時限爆弾は、ネネネの家の前の道路に「正」の字の落書きが書かれていて、まるでなにかをカウントダウンしているかのようにその画数が減っていくという現象です。
また、エルモがリコに抱いている重い感情も、にかいどう青の作風を知っている読者には時限爆弾に思えることでしょう。そもそもエルモは犬の復活など全く信じておらず、自分の語る怪談が他の子に比べてつまらないのではないかと思って*2、どうしたらリコを失望させないのかということばかりに悩んでいます。いや、そもそも百物語という形式自体が時限爆弾をはらんでいます。
にかいどう青はミステリ素養を持つ作家なので、作品世界はかっちり作りこまれています。百物語という形式にもSNSという形式にもすべて意味があります。その形式を利用して物語の速度調整をするテクニックがうまいです。作中人物の狂気と怪談を語るスピードが連動して加速していく展開の怖いこと怖いこと。最後まで一気読みさせられる極上のエンタメですが、一歩引いてみると構成力や技術力の高さにも戦慄させられてしまいます。
『続 恐怖のむかし遊び』所収の短編「あの子がほしい」と並んで、にかいどう百合ホラーの傑作として称えられる作品になりそうです。

*1:より正確にいうと、錯綜しているようにみせないように目くらましをするという、高度な技が仕込まれています。

*2:いや、エルモの語るKさん姉妹シリーズは実存の不安に踏みこんでいるものが多くて、かなり怖いんですけど。