有沢佳映「二十五分間のセンター」
しかしなんといってもこのアンソロジーで特筆しなければならいのは、有沢佳映の新作が拝めるということでしょう。2010年デビューなのに現時点でまだ長編3作と短編2作(本作含む)しか発表しておらず、常に読者を飢えさせている罪深い作家の新作が。
修学旅行居残り組や小学校の登校班など、シチュエーション設定のうまさが有沢佳映の天才性のひとつですが、この作品ではまさに「サイアク」の状況が設定されています。語り手の「ぼく」は、学校では気配を消しているタイプの小学生。そんな「ぼく」は、社会科見学に向かうバスの担任が勝手に出席番号順に決めた座席で、仲のいい女子ふたりにはさまれて最後尾の3人席に座らされるという拷問を経験します。この状況はただでさえ地獄なのに、ふたりは痴話ゲンカを始めてしまい、さらに地獄感が増します。一体どうやったらこんな鬼畜な状況を考えつくのでしょうか。
物語は、ふたりのケンカと「ぼく」の内心ツッコミで進行します。『かさねちゃんにきいてみな』や『お庭番デイズ』で証明されている有沢佳映のギャグセンスでこの状況が料理されているのですから、笑えないはずがありません。まぎれもなく傑作です。
しかし、傑作をお出しされると読者の飢えはさらに増幅されてしまうので、なんとか刊行ペースを上げてもらえないものか……。