『その一言から生まれる物語 えっ、ウソみたい?』(日本児童文学者協会/編)

「ウソみたい」なことがテーマのアンソロジー。そのなかから特におもしろかった作品をいくつか紹介します。

村上しいこ「人間やめますか」

子どもが突然ワニに変身してしまうという導入はカフカ。しかし、簡単に人を食い殺せる力を持ち、月に人間らしい心を見出すワニは、どちらかというと『山月記』の虎を思い起こさせます。人を食べれば人間になれることを知りながらそれをためらう主人公は、エゴイズムを超克しているわけではありません。ここにあるのは、根深い絶望とニヒリズムです。

森川成美「男子VS女子」

学年一のイケメンが男子集団と組んで女子にウソを告白をしてからかう遊びをしていたことが明るみに出て、女子たちから集団リンチめいた糾弾を受けるという話。個と個、群れと群れの権力闘争がスリリングに描かれています。そしてなにより怖いのは、その権力闘争がもっとも残酷なかたちであらわれるのが恋愛というフィールドであるということを暴き立てているところです。

最上一平「魔の六月二十二日」

ダーク系統の話が多かったこの作品集のなかで、ユーモアで魅せてくれたのがこの作品。親が結婚記念日で酒を飲んで酔っぱらっているなかで、子どもがビンに指を突っこんで抜けなくなったという小事件が語られます。酒で浮かれた空気のなかで小ピンチは笑い飛ばされますが、なかなか抜けずレスキュー隊を要請する事態に発展します。レスキュー隊の作業のディテールが描かれる箇所などが妙に笑えて、不可思議な空気感を持つ作品になっていました。